大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所呉支部 昭和54年(ワ)130号 判決

主文

一  原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告両名に対し、それぞれ金七〇〇万円と、これに対する昭和五五年九月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文一、二項同旨

2  仮執行逸脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  北橋好文は、昭和五三年一〇月二〇日被告との間に、同人が所有する自家用自動車(車名ダイハツ、型式H―S―60D、車台番号S六〇―八三八三九二、以下本件自動車という。)につき、保険期間昭和五三年一〇月二〇日から昭和五四年一〇月二〇日まで、自損事故にかかる保険金額一〇〇〇万円とする自家用自動車保険契約を締結した。

なお、右保険金額は昭和五三年一一月一日から一四〇〇万円に改定された。

2  是方亮二(昭和三五年一〇月四日生、以下訴外亮二という。)は、昭和五四年五月八日午後一〇時五〇分頃広島県安芸郡蒲刈町向九一五番地石井茂美方前の県道上で、本件自動車を運転中、路外石垣に激突し、頸椎骨々折により即死した。

3  被告は、前記保険契約に基き、訴外亮二及びその父母である原告両名が被つた後記損害を保険金額一四〇〇万円の範囲内で支払うべき義務がある。

4  損害

(一) 訴外亮二の損害

(1) 得べかりし利益 二一七一万三四〇〇円

(イ) 事故時の職業収入 大工池田一孝に雇われ年収一八〇万円

(ロ) 就労可能年数 昭和五四年五月九日から向う四八年間

(ハ) 生活費控除 収入額の1/2

(ニ) 算式

1,800,000×1/2×24.126=21,713,400(円)

(2) 慰藉料 五〇〇万円

(3) 原告両名は、右の(1)、(2)の合計二六七一万三四〇〇円の1/2にあたる一三三五万六七〇〇円あて相続をした。

(二) 原告両名の慰藉料 各二五〇万円

(三) 請求額

原告両名は、右(一)、(二)の合計額各一五八五万六七〇〇円のうち保険金額の範囲内である各七〇〇万円とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五五年九月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、保険金額の改定の点を除くその余の事実は認める。改定金額は昭和五三年一一月一日以降締結された保険契約から適用された。本件契約は昭和五三年一〇月二〇日締結されたものであるから、右改定保険金額は適用されない。

2  同2のうち、訴外亮二が死亡したことは認めるが、その余の事実は知らない。

3  同3の事実は争う。

三  抗弁

1  本件保険契約には、「被告は、被保険者が被保険自動車について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害については、保険金を支払わない。」旨規定されている(自家用自動車保険普通保険約款第二章第三条一項三号)。

2  右にいう「被保険自動車の使用について正当な権利を有する者」とは、賠償保険の記名被保険者を指し、その者の直接かつ事前の承諾を得ないで被保険自動車を運転している間に、その運転者本人が被つた傷害については免責される。訴外亮二は、記名被保険者北橋好文の直接かつ事前の承諾を得ないで、本件自動車を運転して傷害を受けたものであるから、右免責条項にあたり、被告は保険金支払義務がない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。北橋好文と建設業の職場の同僚である丸山淳が昭和五四年五月八日北橋好文の承諾を得て本件自動車を借受けて自宅に帰つていた。訴外亮二は昭和五四年五月八日午後七時四五分頃丸山淳の呼出を受けて丸山方へ遊びに行き、居合わせた友人らと雑談中、冷たい飲物を買つてくる話が出た。そこで、訴外亮二は丸山淳の承諾を得て本件自動車の鍵を受取り、これを運転中傷害を受けた。したがつて、訴外亮二の本件自動車の運転は実質的にみて前記免責条項に該当するものではない。

第三証拠〔略〕

理由

一  北橋好文、被告間の保険契約

請求原因1のうち、保険金額の改定の点を除く、その余の事実は当事者間に争がない。

原告らは、保険金額一〇〇〇万円が昭和五三年一一月一日から一四〇〇万円に改定されたと主張するけれども、これを認めるに足りる証拠がないから、右主張は採用できない。

二  事故の発生

成立に争のない甲第一号証ないし甲第三号証によると、請求原因2の事実が認められる。

三  免責条項該当の有無

1  本件保険契約には、「被告は、被保険者が被保険自動車について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害については、保険金を支払わない。」旨規定されている(自家用自動車保険普通保険約款第二章第三条一項三号)ことは当事者間に争がない。

2  証人北橋好文、同丸山淳の各証言、原告是方英影本人尋問の結果によると、(1)北橋好文は、昭和五三年一〇月一〇日自己の足代りにするため本件自動車を六八万円で買入れ、右代金を月賦で支払つていたこと、本件事故当時は右月賦金の支払中であつたこと、(2)北橋好文は大工として昭和五四年一月以前から、丸山淳は大工見習として昭和五四年一月から、益田実の下で働いていたこと、(3)北橋好文は昭和五四年五月八日倉橋町鹿島の作業場で、丸山淳が療養中の益田実の車椅子を運ぶので蒲刈に帰るからというので、丸山淳に本件自動車を貸渡したこと、その際、北橋好文は丸山淳に、気を付けて本件自動車を運転するようにと注意をしたこと、北橋好文としては、翌日昼過ぎに丸山淳から本件自動車の返還を受けられるものと考えていたこと、(4)丸山淳と訴外亮二とは友達であつたこと、丸山淳は、昭和五四年五月八日夜訴外亮二を安芸郡蒲刈町向の自宅へ呼び寄せ友人数名と共に雑談中、訴外亮二がジユースを買いに行くと言つたので、北橋好文の承諾を得ることなく、訴外亮二に本件自動車を又貸ししたこと、北橋好文は、当時右又貸しの事実を全く知らなかつたこと、しかして、訴外亮二が本件自動車を運転中、前記二の事故により即死したこと、(5)北橋好文は、本件事故以前に訴外亮二と数回会つたことはあるが、直接付き合いはなかつたこと、が認められる。右認定に反する乙第七号証は、証人北橋好文、同中村延夫の各証言に照らし採用できない。

以上の事実を成立に争のない甲第六号証、乙第四号証及び弁論の全趣旨(被告の昭和五五年二月二七日付準備書面添付の自動車保険の実務相談二三八頁)に照らしてみると、訴外亮二は本件自動車について正当な権利を有する北橋好文の承諾を得ないで本件自動車を運転しているときに、傷害を受けて死亡したものといわざるを得ない。したがつて、被告は前記自家用自動車保険普通保険約款第二章第三条一項三号の規定により保険金を支払う義務がない。

四  結論

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく、失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田國雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例